親を扶養家族に入れるメリット・条件・手続き方法は?

親をご自身の扶養家族とする事で、扶養控除を受ける事ができ、節税対策を行う事ができます。
親と同居しており、その親の所得が少なければ、扶養家族としての手続きを会社に申請されているかと思いますが、親と別居している場合においても扶養の申請をできる事をご存じでない方がおられます。
本記事では同居の親に加え、別居の親でも扶養家族に入れることによるメリット・デメリットと条件、手続き方法について、私自身の実例を交えながらまとめています。
親を扶養に入れるとどうなるのか?

まず扶養家族とは何か言うと、「自分の経済力だけで生活する事が困難な家族を養うこと」です。
親が未成年の子どもを自身の扶養に入れるというのが一般的ですが、子どもであるあなたが、収入のない、または少ない親を扶養に入れる事も可能ですし、兄弟、祖父母も扶養家族にする事ができます。
親を扶養家族に入れる事という定義については、「税法上の扶養」と「健康保険上の扶養」があります。
この二つはそれぞれ扶養家族にできる条件が異なります。
税法上の扶養に入れた場合、
扶養控除として65歳未満の親族であれば、1人当たり38万円の扶養控除を受ける事ができます。 あなたの所得を大幅に下げられますので、所得税・住民税を軽減する事ができます。
また健康保険上の扶養に入れると、
親をあなたの社会保険に加入させる事ができ、国保から脱退させ、国保の月額負担をなくすことができます。
この二つの扶養について、下記で詳しく解説します。
親を税法上の扶養とした場合のメリット・デメリットについて

親をあなたの税法上の扶養とした場合、あなたの扶養家族が増えるため、扶養控除の対象人数を増やす事ができ、あなたの所得税・住民税の控除額が増えます。
所得税は、源泉徴収票に記載されているあなたが年間で獲得した給与所得から、諸々の控除を差し引いて、最終的にあなたにかかる税金です。
この諸々の控除の中に「扶養控除」というものがあります。
扶養控除とは、16歳以上の扶養親族を対象に、下記の表に基づき控除を受ける事ができます。
区分 | 対象年齢 | 控除額 |
一般の控除対象扶養家族 | 16歳以上~69歳未満の親族 | 38万円 |
特定扶養親族 | 一般の控除対象扶養親族の内、19歳以上23歳未満の親族 | 63万円 |
老人扶養親族(別居の場合) | あなたと別居している70歳以上の親族 | 48万円 |
老人扶養親族(同居の場合) | あなたと同居している70歳以上の親族 | 58万円 |
※その年の12月31日時点での年齢が適用されます。
例えば、ご両親がお二人とも69歳以下であれば、一人あたり38万円。二人で76万円が、あなたの課税所得から控除されます。
メリットは上記の所得控除を受けられる事で節税する事ができます。デメリットは特にありません。 扶養される親族には、メリットもデメリットもなく、あくまで扶養する方にメリットがあります。
親を健康保険上の扶養とした場合のメリット・デメリットについて

健康保険上の扶養となった親族は、社会保険に加入できます。
被扶養者名義の「社会保険証」が受理され、国民健康保険(国保)と同じく通常3割負担(70歳~74歳は2割負担)の保険料で医療を受ける事ができます。
社会保険に加入している会社で働いている者が、会社と折半で保険料を支払う訳ですが、社会保険の特徴として、扶養家族が何人いても、月々の社会保険料負担額が変わらないという点が挙げられます。
もちろん社会保険加入者の扶養に入っている方の保険料負担がありません。
国保の場合は、扶養という概念が無いので、個々人が加入する必要があるため、保険料の個々にかかってきます。
扶養家族となった者は、国保の加入負担額の支払いが無くなるため、その分の金銭的負担がまず減るメリットがあります。
また保険料を支払う側のメリットとしては、医療費控除対象者が世帯に増えるので、年間の保険料支払い額が10万円以上になった場合に受けられる医療費控除額が多く受けられる可能性があります。
特に親が高齢になってくると、医療を受ける機会も多くなってきますので、保険料を支払った分、還付を多く受けられる可能性があります。
但し注意点として、子どもの健康保険上の扶養になると、子どもの現在の条件で設定される自己負担の上限額が、親にも適応されます。
そのため高額な医療費を支払っている場合、自己負担金額が増える可能性があります。
医療費には上限額が定められており、上限額を超えると自己負担なく医療が受けられますが、この上限額は年齢や所得によって異なります。
通常年齢が若く、所得が多いと上限額が低く設定されるのですが、子どもは親よりも若くて所得が多いため、親があなたの扶養家族となった場合、あなたの条件に応じた上限額が設定されてしまいます。
所得の少ない親が自身で国保をかけている場合に比べると、上限額が低く設定されますので、親の医療費が高額な場合は、あなたの扶養に入れた場合の負担額が多くなる可能性があり、結果的に親が自身で国保をかけていた方が医療費の負担が少なくて済むことがあります。
この点はよく吟味した上で判断しましょう。
【メリット】
・親の国保料金の負担がなくなる。
・医療費控除の対象者が増え、医療費控除が多く受けられる可能性がある。
【デメリット】
・高額医療費の自己負担上限額が上がる。医療費が高額になる場合は、負担額も上がる可能性があるので注意。
親を扶養に入れるための条件

親を扶養に入れるには税法上、健康保険上で条件が異なり、同居か別居かでも変わってきます。
親を税法上の扶養家族とするための条件
下記に全て当てはまる方が対象になります。
(1) 配偶者以外の親族(※6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます。)又は都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(別居の場合は一定額、親への仕送りが必要。)
(3) 年間の合計所得金額が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)であること。
親の所得が給与のみの場合は給与収入が103万円以下である事。
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと。
又は白色申告者の事業専従者でないこと。
引用元:No.1180 扶養控除 – 国税庁 2 扶養親族に該当する人の範囲
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm
※税法上の扶養家族にできる範囲 6親等内の血族及び3親等内の姻族については、下記の表をご覧ください。
■6親等の血族 および 3親等の姻族 の親等図
http://www.meishinsha.com/images/sinto.pdf
親と別居の場合は、親への仕送りが必要となります。
明確な金額は設定されていませんが、私の実例を踏まえて、詳しくは下記「手続き編」で後述します。
また、年間の所得金額については親が年金暮らしの場合、「公的年金控除」があり、その控除金額を年金収入から差し引いた金額が所得金額になります。
親の所得が年金収入のみの場合、65歳未満であれば、公的年金控除として70万円。65歳以上であれば120万円の控除を受けられます。
したがって65歳未満であれば、年金所得が108万円以下。65歳以上であれば年金所得158万以下であれば、扶養対象となります。
年金と給与所得両方の収入がある場合、その合計から給与所得65万円の控除を差し引き、年金所得と合算して38万以下になるかがポイントになります。
なお、ここでいう年金収入は公的年金などの課税対象のみですので、法令で非課税所得とされる遺族年金その他の年金は所得として算入しませんので、ご注意ください。
親を健康保険上の扶養家族とするための条件
健康保険上の扶養にするためには、以下の条件を満たす必要があります。
・子どもが会社の社会保険(健康保険)に加入していること
→前述の通り、国保には扶養という概念がないため。
・親の年齢が75歳未満であること
→75歳以上になると、後期高齢者医療制度に加入となるため、扶養に入れる事ができなくなる。
・親の年収が一定の条件を満たしていること
【親と同居している場合】 親の年収130万円未満で、子どもの年収の2分の1であること。
【親と別居している場合】 親の年収130万円未満で、かつ子どもからの援助による収入より少額
※年収は同居・別居に関わらず親が60歳以上か、障害厚生年金を受給する程度の障害社の場合は、年収180万円未満となります。
例えば、親と同居の場合、親の年収が200万円であれば、子供の年収は400万円以上が必要になります。
なお、ここでいう年金収入は公的年金の他に、遺族基礎年金および遺族厚生年金を含んだ所得になります。
扶養は世帯ではなく個人で考えます

よく勘違いされやすいのが、健康保険上の扶養、税制上の扶養は両方の条件を満たしていないと扶養家族になれない。またはその世帯で加入条件を満たしていないと加入できないという間違いです。
扶養や収入は世帯ではなく、個人で考えるため、父、母、または兄弟がいる場合でも個々に条件を満たしていれば、扶養家族にする事ができます。
したがって、税扶養、健康保険上の扶養のどちらか片方の条件を満たしていれば、片方だけでも入ることができますし、父母、どちらかを片方を扶養家族にする事も可能です。
私の場合を例に出すと、父が年間所得の38万円を超えていたため、税法上の扶養には入れる事が出来ませんでしたが、社会保険上の扶養には入れる条件を満たしておりました。ただ別居だったため仕送りが必要でした。
父は当時64歳でしたが、基礎年金と厚生年金(報酬比例部分)の一部を受給しており、年に108万円程の収入があったため、これを超える仕送りが父だけで9万円以上が必要でした。
父は60歳で定年退職しており、退職金を食いつぶして生活していたのですが、さすがに4年も経ってくると貯金も底をついてきます。
しかし9万円以上の仕送りをすると、私と私の家族の生活がかなり苦しくなるため、現実的に難しいのが実情でした。そこで母のみ税扶養・及び健康保険上の扶養に入れる事にしました。
母は月に3万円程度の年金を受給していたので、税扶養も健康保険上の扶養も条件を満たしていました。かつ3万円以上の仕送りであれば対象となるため、親の必要分として希望していた毎月5万円の仕送りをしています。
父も健康保険上の扶養に入れる事も可能でしたが、別居の二人を両方とも入れるためには、毎月12万円以上の仕送りが必要になるため、父の扶養を断念した形になりました。
このように父母、どちらか条件を満たす方を扶養に入れる事も可能ですし、税扶養も健康保険上の扶養のどちらか片方で入れる事も可能です。
親を扶養に入れるための手続き

親を扶養に入れるための手続き自体は、会社が提携している社会保険労務士(以下:社労士)さんが行うのが一般的ですので、会社を通して申請する形になります。
詳しくはお勤めの会社から確認していただけばと思いますが、私が扶養家族の追加手続きに必要だった書類関連を記載しておきます。
税扶養、健康保険上の扶養それぞれ手続きに必要な書類が異なります。
親を税扶養に入れるために必要な添付書類
・(税・保険共通)扶養に入れる親族のマイナンバー(コピーでOK)
・(税・保険共通)扶養に入れる親族、個々の収入。
・扶養に入れる親族の名前、名前フリガナ、住所。
親を健康保険上の扶養に入れるために必要な添付書類
・(税・保険共通)扶養に入れる親族のマイナンバー(コピーでOK)
・(税・保険共通)扶養に入れる親族、個々の収入。
・扶養に入れる理由
→社労士さんが手続きを通す際に必要とのこと。
・仕送り額がわかる書類
→振り込んだ通帳のコピーが適当。他にも現金書留控えのコピーやATM振込控えのコピーなど。
→実績は通常2,3ヶ月分の仕送り実績が必要だが、政管健保か組合によって期間は異なる模様。
・年金機構発行の直近の年金振込み額通知書
※税扶養となっている場合は不要。私が母を税扶養・健康保険上の扶養に入れる際は不要でした。
・「扶養に関する申立書」(任意書式)
▼「扶養に関する申立書」の書き方例
扶養に関する申立書
父:氏名 〇万円
母:氏名 〇万円
を毎月仕送りしています。
あなたの住所
あなたの氏名 捺印
※詳しくはお勤めの会社、または社労士さんにご相談下さい。
また扶養控除について、国税庁にQ&Aページがありましたので、参考にしてください。
▼No.1180 扶養控除 – 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180_qa.htm
まとめ
親を扶養に入れる事で得られるメリットや条件、手続きについてまとめましたが、いかがでしたでしょうか?
親を扶養に入れる年収や仕送りなどの条件がありますが、クリアできれば親族だけでなく、あなたにも節税する上で大きなメリットがあります。
特に同居の親族や、現在仕送りしている親族がいる場合で上記の事を知らなかった方は、是非検討してみて下さい。